法人税も所得税も「所得」に対して税金がかかります。
所得とは、簡単にいうと1年間の「儲け」です。
それでは、1年間の「儲け」とは何でしょう。
たとえば、1年間に入ってきたお金から、1年間に出て行ったお金を差し引いて、残ったお金がその1年間の儲けである。というのはとてもわかりやすいですし、生活に合った考え方です。
しかし、法人税法や所得税法にいう「所得」とは、残念ながらこの、残ったお金ではありません。
法人税では、「益金」-「損金」=所得です。
所得税では、「収入金額」-「必要経費」=所得です。
益金や収入金額というのは、たとえば、「売上高」です。これも、入ってきたお金とは必ずしも一致しませんが、今回お話ししたいのはこちらではありません。
今回は所得計算のマイナス要素、損金や必要経費のことをお話しします。
損金や必要経費も「出て行ったお金」と一致しません。この、一致しないことはいろいろあるのですが、今回は3つの事柄についてお話しします。
この3つはどれも会計や経理がわかる人にはあたりまえの話です。
でも、残ったお金こそが「儲け」であるというのも、またひとつのあたりまえではないでしょうか。
だから簡単に「あたりまえだ」といってはいけないと思うのです。
借りたお金は返すというのが契約であり、常識ですが、借金を返せばお金は出て行ってしまいます。
しかし、借入金の返済は損金にも必要経費にもなりません。
いくらなんでもこれは説明不要だろうとも思われますが「なぜですか?」と聞かれることがあります。
そのようなとき、私は「借りたときには益金や収入金額にはなりませんので、返す時も損金や必要経費にはならないのですよ」と説明しています。
正面から答えていません。逃げているようですが、理解はされます。
仕入れというのは商品や原材料を買うことです。やはりお金が出て行きます。
仕入代金が損金や必要経費にならないといったらビックリでしょう。ならないことはないのですが、一致しません。棚卸しがあるからです。
その年の原価(損金や必要経費のうち、売上高に直接対応するもの)になるのは、その年に、売上代金と引き換えにお店から出て行った商品、使った原材料の金額です。これはその年に仕入れた商品、原材料の金額とは一致しません。なぜなら、買っても(仕入れても)その年のうちに売れない(お店から出て行かない)商品や使われない原材料があるからです。これを在庫といいます。
その年の原価は、前年末の在庫の金額+その年の仕入金額—年末の在庫の金額となります。
これが損金や必要経費になります。
今年は利益が大きくなりそうだからといって、年度末に商品をたくさん仕入れても、在庫が増えるばかりで所得(税金)は減りません。
お城などの建物、自動車といった事業用の高額な資産(減価償却資産)を買った場合、たくさんのお金が出て行ってしまいます(ローンだリースだという話はしません)。
このような減価償却資産の購入代金や運搬費、据え付け費などの合計金額(取得価額といいます)は、その資産の種類ごとに決められた法定耐用年数(写真の杵築城天守閣は50年、トヨタヴィッツは6年)で割り振って各年の損金や必要経費にします。年の途中で買った場合には1年分の金額を月割りにします。
これが減価償却費です。
事業の遂行や拡大に必要な資産は、場合によってはそれこそローンやリースを使ってでも購入すべきです。しかし、必要性が低かったり、高価すぎる資産購入はキャッシュが減るばかりで節税効果は思ったより少ないものです。
このように、お金が出て行っても損金や必要経費にはならず、所得が減少しない、したがって税金が減らないことがあります。
しかし、棚卸し資産や減価償却資産について、消費税の扱いは所得税や法人税とは少し違います。
消費税の納税額の計算は、次のとおりになります(本則課税)。
1年間に受け取った消費税-1年間に支払った消費税=税務署に納める消費税
そして、消費税を受け取った、支払ったというのは消費税が発生するもととなった資産の譲渡等がおこなわれた、つまり売り上げや仕入れなどの時期が基準になります。
したがって、在庫がいくら発生しようとその年に仕入れた商品の代金と一緒に払う消費税は、消費税の納税額の計算上、1度に全額差し引いてしまいます。
また、高額な減価償却資産を買った場合、これによって発生した消費税額はその年の消費税の納税額の計算上、やはり1度に全額差し引いてしまいます。
消費税には棚卸しや減価償却は関係がありません。
面白いですね。
というか、こういうことを面白いと感じる人間が税理士に向いているのかもしれません。